相馬の伝説



    
大悲山の大蛇と
琵琶法師



 自分の命は惜しい、村人の命も大事、
琵琶法師の心は揺れた…

  【小高町・大悲山・薬師堂】
 

 南北朝時代にさかのぽって、相馬光胤(みつたね)公の頃の話です。上方から、玉都(たまいち)という琵琶法師がやってきて、見えない眼を治すため、大悲山の観音薬師さまに願をかけました。薬師堂の中におこもりをしているので、夜は大変さびしくて、一人で琵琶をひいて自分をなぐさめていました。
 そのうち、一人のりっぱな武土がどこからともなくやってきて、琵琶に聴き入っていましたが、それからは毎晩琵琶を聴きに来るようになりました。
 そして、ある晩、武士は「私は本当は人間ではなく、この薬師堂の池に住んでいる大蛇だ」と告げるのです。驚きおののく琵琶法師を前に、大蛇はさらに「自分の体が大きくなりすぎて、もうこの池がせまくなった。だから、これから七里(二八キロメートル)四方を泥海にしようと思う。だが、お前だけは琵琶を聴かせてくれたお礼に助けてやりたい。七日の間にここから出ていけ。ただし、このことは誰にも言ってはならぬ。もし他言すれば、お前の体を八つざきにするぞ」というのです。
 琵琶法師は苦しみ悩みました。黙っていれば自分の命は助かる、けれども、そのために罪のない村人達が死んでしまう、村人達を助けたい、だが、そうすれば自分の命は…。琵琶法師はついに決心しました。小高にいた相馬公のもとに行き、事の一切を話しました。そして、城を出るやいなや、天がにわかにかきくもってものすごい天候になりました。その黒雲の間から大蛇が姿をあらわし、あっというまに法師の体をさらっていったのです。
 一方、あやうく難を知らされた城下の人々は驚きさわぎましたが、蛇には鉄が毒だと知って、鉄のくぎをいっぱいつくり、大悲山の山や谷に打ちこんで、ついに大蛇を退治することができました。
 そのことがあってから、琵琶法師の琵琶が落ちたところが琵琶橋、大蛇の耳の落ちたところが耳谷(みみがい)、角の落ちたところが角部内(つのぼうち)という地名になって、今に残っています。

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2001/11/18 1:52:39